クリスチャンじゃないのに、クリスチャンスクールその2

「You need to buy a bible」
(Pinouraは聖書を買わなくちゃね)



アメリカの一年間の受け入れ先が決まって事前研修中のホストファミリー宅から引っ越しも無事に終わって、ホストマザーになるJolene(ジョリーン)と買い物に出かけたその朝に言われた。



聖書。Bible。バイブル。


「バイブル」っていう単語は歌の歌詞や読んだことのある本なんかにたまにでてきていたけれど、それが「聖書」を指す言葉という事はいつ知ったのか。少なくとも、アメリカに着いたその時には知っていた。の、で、ホストファミリーに言われた時は私がどうやら聖書を買う必要があるというのを言っている事は理解できた。さすがにそれくらいの文章を理解できる程の英語力はある。


「Oh...OK, but I already have one. At the language camp, Church gave us each. It's English and Japanese」
(あ、でも、もう1冊持っているよ。語学研修中に教会がくれたもん。英語と日本語が書いてあるよ。)


(→ちなみに、交換留学先の高校に入る前に一か月の語学研修が街の教会の場所を借りて行われました)



「No, it's not enough. You need one for the class of Bible.」
(それじゃあ充分じゃないのよ。聖書のクラスの為に1冊必要ね)



ふーん、そういう物なのか。いや、というか、聖書のクラスってなんだよ。語学研修中にも毎週日曜日の朝は教会に行っていたけど、まさかこれからSunday School(日曜学校=教会で聖書やキリスト協の勉強)にでも通わされるのか?!?!?!


と、多少頭の中にハテナマークが浮かびながらもJoleneはカンザス州のまっすぐな道を走り続け、一軒のお店にあたし達はたどり着いた。そこは、クリスチャンの為のお店。



クリスチャンの為のお店?



なんじゃそりゃ、と思うでしょう。少なくとも日本でそんなお店をあたしは未だかつて見たことがない。そもそも需要もそんなにないだろうから、日本でオープンしてもたちまち潰れてしまうと思う。しかしそこはアメリカ、中部の超保守的プロテスタントが大多数を占めるカンザスである。いたるところにあるんだな、クリスチャンの為のお店。


普通のお店と何が違うかって、売っている物全部キリスト教に関係した物。一見普通の絵本に見えても、一件普通のアニメビデオに見えても、一件普通の音楽CDに見えても、それは全部「クリスチャンとして、キリスト教を学び、キリストを称え、キリスト教徒であることを楽しんだりするもの」なんだな。


具体的に言わないとわからないね、例えば…

  • 聖書
  • 聖書の虎の巻(解説書みたいなの)
  • ゴスペルCD
  • ゴスペルじゃないけれど、クリスチャンバンドのCD
  • 子供向けに聖書を勉強できるアニメVeggie Tale(野菜が主人公…)
  • アクセサリー類
  • 聖句の書かれたカード
  • etc,etc....


とか。とにかく、全部キリスト教関係。それ以外の物はない。


とにかく、そこで20ドル位の聖書をJoleneが選び、あたしがお会計。そもそも聖書の値段もピンキリなのだけれど、聖書って中身全部一緒だよね…?一体何がその値段の違いを作り、人々は一体何を基準に選んでいるのかがいまだにわからない。いや、装飾などもあるんだろうけれどさ、でも内容が変わるわけがないしな。なんとっても世界一のベストセラー。


あたしが買った聖書は、黒の外装、ページ部分の背には金箔。箱入りでとてもとても奇麗な物。と、いってもなんでこれを買った(正確には買わされたのだが…)のか、まだ理解できていない。必要ないかもしれない出費だったらやだな…、と思いながらもそこまでまだ主張する勇気も、英語力もなかった。の、だが、

「OK, now you can take Bible Class! Ms. Lucas will be your teacher. She is good, and Briged and Jamie will will be in your class, that is also good! You know, them?」
(OK,これで聖書のクラスに入れるわね。ミス・ルーカスがあなたの先生よ。いい先生だからよかったわね。あと、ブリジットとジェイミーも同じクラスにいるはずだから。2人は知っているでしょ?」


ん?確かにブリジットとジェイミーは知ってる。語学研修中に、その時のホストシスターのJade(ジェイド)と、Joleneの娘でこれからあたしのホストシスターになるJulie(ジュリー)と一緒に会った覚えがある。彼女たちはこれからあたしが通う高校のクラスメイトになる、というのも聞いている…


と、いうわけは、あたしは高校で聖書のクラスをとることになるの?へ?高校の授業で聖書のクラスがあるの?


遠慮がちに聞いてみた。


「Ah...Do I need to take Bible Class?? I thought I could choose the subject what I want.」
(えっと…あたしは聖書の授業をとらないといけないの?教科は自由に選べるって聞いていたけれど。)


「Yes. You have to take. You still can choose other subjects though.」
(ええ、必須科目よ。でも他の教科は選べるわよ)


有無を言わさず。どうやら高校の授業で聖書が必須らしい。日本のごく普通の私立高に通っていたあたしからしてみたら、信じられなかった。なんで、聖書の授業を取らなくちゃいけないのよー!宗教の勉強?!あたし、クリスチャンじゃないのに…


いや、この時点でもやっぱりわかっていなかった。あたしは、これからクリスチャンスクールに通うのだ。そりゃあ、よくよく考えたら聖書の授業もあるだろう。しかし、それを素直に受け入れられる自信が既になかった。


なぜか?だってだって、たった一か月間だけれど語学研修中にお世話になったホストファミリーと毎週日曜日の礼拝に行っていたけれど(行かされていた)、それすら苦痛だったんだよ。


苦痛だった内容は後々書くとして、そんなこんなで聖書を手に入れたあたし(二冊目なんだが…)。ちょっと不安でちょっと嫌だけれど、それでも、これで堂々と教室のドアを開けられるってもんだわ!と、意気込んで、高校生活は始まった。